熱帯におけるマラリア媒介の気候面における影響
熱帯におけるマラリア媒介の気候面における影響
熱帯では、気候要因は重要である。
気候の影響は複雑である。
そして
地域や
その地域に生息する
マラリア媒介蚊であるハマダラカの生態により
そうした気候の影響は変わる。
気温
理論的には
気温が高いと
マラリア媒介蚊であるハマダラカが
マラリア感染者であるヒトから、マラリア原虫を吸血した後
他のヒトに感染させることができるぐらい
蚊の体内で、マラリア原虫が増殖する期間である
the extrinsic incubation periodが、短縮されるので
マラリア媒介の可能性は増すはずである。
しかし
気温が高いと
吸血や産卵のような活動もまた、増加する。
そして、蚊にとって、吸血や産卵のような活動は
死亡する危険性が高いハイリスクな活動である。
そのため、蚊の生存率が減少するので
マラリア媒介の可能性は
そうした面での影響を受けるかもしれない。
つまり、気温が高いからといって
マラリア媒介の可能性が増すとは限らない。
赤道近辺では
マラリア媒介蚊であるAn. gambiae(ガンビエハマダラカ)は
海抜3, 000 mまでは
普通に、見られる。
しかし
そうした地域でも
マラリアが小流行(endemic)している地域は
海抜 1, 800 m ~ 2, 000 mまでであり
それ以上の高度では、見られない。
赤道近辺では
マラリア媒介蚊であるAn. gambiae(ガンビエハマダラカ)が
海抜3, 000 m以下の地域で生息しているのに
マラリアが小流行(endemic)している地域が
海抜 1, 800 m ~ 2, 000 mまでに限定されているのは
おそらく、マラリア媒介蚊であるハマダラカが
マラリア感染者であるヒトから
マラリア原虫を吸血した後
他のヒトに感染させることができるぐらい
蚊の体内で、マラリア原虫が増殖する(extrinsic incubation)のに
必要な温度が存在し
その温度に達しないと
マラリアが小流行(endemic)しないからだろう。
それは
北欧・旧ソ連のような高緯度地域で
7月の等温線15℃が
マラリア流行の北限であったのと
類似している。
湿気(乾燥していないかどうか)
暑いが
乾燥している気候においてもまた
マラリア媒介蚊であるハマダラカの生存率は
減少するかもしれない。
しかし
暑いが、乾燥している気候が普通である地域では
そうした地域に生息している種類のハマダラカは
そうした気候に対処できるように、順応してきた。
例えば、スーダンの半乾燥地域では
ひどく乾燥し、かつ、極度に暑い気候であるが
マラリア媒介蚊であるAn. gambiae(ガンビエハマダラカ)のメスは
1年の11ヵ月までは
住居や
他のひそむことができる場所(住居以外)で
ひそむことにより
生き残る。
ヒトへの吸血は続くので、マラリア媒介は、中断されない。
しかし
蚊の卵巣では
再び、雨が降り始めるまでは
卵を発達させることを始めない。
こうした戦略は、gonotrophic dissociationと呼ばれている。
こうした戦略は
オランダにおけるマラリア媒介蚊であるAn. atroparvusの
冬期における生存機構に、よく類似している。
上記の事例は
両方とも
気候上は、マラリア媒介に不都合な状態であるのに
マラリア媒介蚊であるハマダラカが
活発に活動しないことによって
蚊の生存率が高くなり
マラリア媒介が続いた事例である。
降雨
降雨があると
地面に水たまりや、他の生息場所ができるので
マラリア媒介蚊であるハマダラカが繁殖し
マラリア媒介が増加し得る。
しかし
大雨では
flushing effect(洗い流し効果)が起こり得る。
つまり
大雨では、地面の水流の速度が激しくなり
水たまりなどの生息場所が洗い流されるので
マラリア媒介蚊であるハマダラカも流され
マラリア媒介が減少し得る。
干ばつにより
水量を
マラリア媒介蚊であるハマダラカが繁殖するのに必要な量より
少なくなり
ハマダラカの生息地がなくなるかもしれない。
しかし
干ばつによって
それまで、流水だったものが
よどむようになるかもしれない。
したがって
乾燥地域では、干ばつが長引くと
マラリアが減少するかもしれないが
もともと、雨量が豊富な地域では
干ばつが長引くと
川などの流水が、よどんだ水たまりなどに変化し
おびただしい数のハマダラカが繁殖した後で
「drought malaria」(干ばつマラリア)が
起こり得る。
灌漑地域における人工的な水路や
都市地域における
洪水防止用の排水溝や下水道でも
同じことが起こり得る。
干ばつにより
人々は
水槽、ドラム缶(円筒形容器)、他の人工的な容器に
水をためるようになるので
そうしたことによってもまた
マラリア媒介蚊であるハマダラカの生息地が
できるかもしれない。
↑ 『Climate Change and Mosquito-Borne Disease』
(Paul Reiter)
(Dengue Branch, Division of Vector-Borne Infectious Diseases, National Center for Infectious Diseases, Centers for Disease Control and Prevention, U.S. Department of Health and Human Services, San Juan, Puerto Rico)の一部を私が和訳したもの。
イメージしやすいように、現在のスーダンの地図を載せた。
http://www.ehponline.org/members/2001/suppl-1/141-161reiter/reiter-full.html
アフリカの赤道近辺などのマラリア媒介蚊である
Anopheles gambiae(ガンビエハマダラカ)の成虫が
水中から羽化して出現するのは
昼間ではなく
日没や、日没後、深夜になるまでの間である。
それは
昼間、羽化して、大気中に出現すると
天敵に襲われたりして、生存率が低くなるから
そうならないように、わざわざ、羽化を遅らせているのだろう。
つまり
温度が高くなれば高くなるほど
それだけ、単純に、羽化の時期が早まるというわけではない。
しかしながら、12時間:明るく、12時間:暗いという環境(LD 12:12)では
幼虫の時期は
日中、成虫の蚊として、大気中に出てくることを最小限にするように
変更される( Figure 1B. )。
類似の24時間周期のリズムは
吸血、休憩、産卵のような他の行動も
周囲の気温に関係なく
最適な時期に行われることを確実にする。
↑
https://taiko34.seesaa.net/article/200809article_112.html
↑上記論文の前半の和訳の一部である。
一般的に
マラリア媒介蚊であるハマダラカは
やや清明な水でしか繁殖できない。
したがって
都市部や船上の古タイヤに貯留した汚水などで
ハマダラカが繁殖することは考えにくい。
今回 An. minimus幼虫(←コガタハマダラカのことである)が
かなりの量で確認された小浜島は
過去のマラリア関連資料からは有病地とされている が、
防遏(ぼうあつ)拠点は 置かれておらず
細かな患者発生記録等が残っていない。
今回 An. minimusが確認された調査地点は
いずれも湧き水を水源とする溜水帯であり、
そのことが
同島がマラリア媒介蚊生息地として存続することができた
大きな原因と考えられる。
↑
『大正時代のマラリア資料(沖縄県のハマダラカは、3270m以上、飛ぶことができない)』
http://supplementary.at.webry.info/200803/article_7.html
【元々の出典】
『マラリア媒介蚊調査事業報告書
〈八重山のマラリア 過去・現在・未来〉』
(地域保健推進特別事業 平成11年4月~平成13年3月)
http://www3.pref.okinawa.jp/site/view/contview.jsp?cateid=52&id=8538&page=1
の
『第1編 八重山地域におけるマラリア媒介蚊の生息状況調査』
http://www3.pref.okinawa.jp/site/contents/attach/8538/1%20seisokutyousa.pdf
の p 18
一、概して ハマダラカは 普通の Culexと 異なり
比較的 清明な 水中で 発育する。
(小泉氏は、汚濁した 水中でも ハマダラカが 成育することが あると主張している)
二、田園 及び 灌漑溝は
普通 Anopheles sinensis(シナハマダラカ)の 発育が 確認される。(ウオットナン氏)(小泉氏)
三、圳路 及び 溝渠(岸の 土堤で 草が 生え、水が よどむ 所)に
Anopheles minimus(コガタハマダラカ)、
Anopheles maculatusが 多く 発育する。
四、河川 渓流 河崖 河床 河岸の 湧水が たまるところ
(流速が 緩徐な 河岸で 草が 茂っている 地)に、
Anopheles sinensis(シナハマダラカ)、Anopheles hatori, Anopheles maculatusが 生息する。
五、池沼 凹地 坑穴 等の
諸流の 流入して、水が たまって とどまる 地 及び 湿潤地に
種々の ハマダラカが 集合して 成育する。
六、湧泉に、
Anopheles minimus(コガタハマダラカ)、
Anopheles maculatusが 生息する。
七、植物(草本、樹木、やぶ、森林 等で ある)には、
概ね ハマダラカ以外の 蚊が 生息する。
↑
『大正時代のマラリア資料(台湾のハマダラカの種類)と揚子江の熱帯熱マラリア消滅』
http://supplementary.at.webry.info/200802/article_29.html
【元々の出典】
『熱帯衛生並ニ熱帯病提要』
(台湾軍 軍医部 編。大正11年発行)p 141~146
参考として
マラリア媒介蚊であるハマダラカの飛翔範囲のまとめを
下記に載せる。
ハマダラカの飛翔範囲
Anopheles gambiae(ガンビエハマダラカ):数百 m
An. merus:数百 m
An. funestus:800 m
八重山に生息しているコガタハマダラカ:3270 m より短い距離
(↑ 小浜島では、湧き水を水源とする溜水帯でしか生息できない)
An. pharoensis: 9 km
↑
http://ameblo.jp/475229/entry-10135230128.html
今回、私が和訳した箇所の原文を下記に記す。
Climatic influences on malaria transmission in the tropics. Climatic factors are important in the tropics. Their influence is complex and varies according to region and the ecology of the vectors concerned.
Temperature. In theory, high temperatures should increase the likelihood of transmission because they reduce the extrinsic incubation period. However, activities such as biting and egg laying are also likely to be accelerated. These are high-risk activities, so survival rate, and thus transmission rate, may also be affected.
In equatorial regions, vectors such as An. gambiae are commonly found as high as 3,000 m above sea level, but endemic malaria disappears above 1,800-2,000 m (102,103). A limiting factor is presumably the temperature required for effective extrinsic incubation, analogous to the temperature limits defined by isotherms at high latitudes.
Humidity. Survival rate may also be reduced when hot weather is accompanied by low humidity, but in areas where such conditions are normal, local species have adapted to cope with them. For example, in the severe drought and extreme heat of the dry season in semiarid parts of the Sudan, female An. gambiae survive up to 11 months of the year by resting in dwelling huts and other sheltered places. Blood feeding continues, so transmission is not interrupted, but the ovaries do not begin to develop eggs until the rains return (42,104). This strategy of gonotrophic dissociation is remarkably similar to the winter survival mechanism of An. atroparvus in The Netherlands. In both cases, inactivity leads to a high vector survival rate and continued transmission of malaria, even under adverse climatic conditions.
Rainfall. Rainfall can promote transmission by creating ground pools and other breeding sites, but heavy rains can have a flushing effect, cleansing such sites of their mosquitoes. Drought may eliminate standing water but cause flowing water to stagnate. Thus in arid areas prolonged drought may cause malaria to decline (105), whereas in areas where rainfall is normally abundant, vast numbers of mosquitoes can be produced and "drought malaria" may follow. Similar patterns apply to artificial streams in irrigated regions and storm drains and sewers in urban areas. Drought may also stimulate people to store water in cisterns, drums, and other manmade containers that serve as breeding sites.
この論文の和訳は
『 熱帯におけるマラリア』
https://taiko34.seesaa.net/article/200902article_8.html
から続く。
マラリアについて、それなりに知りたかったら
『日本でマラリアが再流行するとは思えない。 』
http://ameblo.jp/475229/entry-10119259340.html
http://supplementary.at.webry.info/theme/1e71136f7c.html
参照。
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